法律×エンタメ電子書籍を専門とするノベル時代社では、下記のタイトルの小説を電子書籍として出版することになりました。
今回は、「表紙デザイン」を作成してくれる方を募集します。

■ 書籍情報
・タイトル:天才行政書士 狭霧詠には弁護士なんか必要ない(らしい)
・著者:大滝しおん
・出版社:ノベル時代社
・ジャンル:ライトノベル、キャラ文芸
・プラットフォーム:Kindle(電子書籍)

※本作は、大滝しおんの著作『紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)』(文響社刊)と同じ世界観の別物語(スピンオフ作品)にあたります。同作の登場人物も一部出演します。
シジョセンについてはこちら( https://novelzidai.com/books_008/ )にまとめていますので参考にしてください。

■ 文字(タイトルロゴ)の扱いについて
イラスト内に作品タイトルの文字入れ(ロゴデザイン)まで含めた「表紙デザインの完成形」でのご提案をお願いいたします。

■ レギュレーション目安
・サイズ:Kindle表紙推奨サイズ(縦横比 1:1.6 / 例: 1600×2560px)
・納品形式:PNG / JPG 等

■ ターゲット
・『紫雲女子大学消費者センターの相談記録』のファンの方
・リーガルもののライトノベル、キャラ文芸が好きな方
・司法試験、司法書士試験、行政書士試験など法律系資格試験を狙っている方
・法学部の学生など法律に興味がある方
・弁護士や行政書士などの実務家や法務関係の仕事をしている方

■ ご要望・ねらい
「行政書士が弁護士を雇う」「17歳で司法試験合格のロリ行政書士」という、法律関係者から見れば「現実の法制度ではありえない(あるいは絶対やらない)ツッコミどころ」をあえて満載にしています。
実務家や法学部生ほど「現実の法律・実務と照らし合わせてついツッコミを入れたくなる」「同業者同士で話題にしたくなる」というバイラル効果を狙っています。
『天才行政書士 狭霧詠には弁護士なんか必要ない(らしい)』という挑発的なタイトルを生かして、彼らが思わずクリックしたくなる魅力的な表紙デザインを考案してください。

■ 応募方法

  1. 弊社特設ページ( https://novelzidai.com/lp/sagiri-uta/ )に掲載している冒頭の物語をお読みいただき、登場人物と物語の雰囲気を把握してください。
    ※なお、弊社特設ページの小説を生成AIに学習させることは禁止しております。
  2. その上で、あなたの思い通りに表紙デザインを作成・ご提案してください。

■ その他注意点
・生成AIで作成した表紙デザインでのご応募はご遠慮ください。
・ご応募いただいた表紙デザインは、著者・大滝しおんと弊社担当編集が協議の上、選考いたします。

■ 作品の実績・今後の展開について
本作は、第1回小学館文庫キャラブン!文芸賞および第12回角川文庫キャラクター小説大賞選出作です。大手出版社も注目しており、将来的な紙書籍化を見据えた展開を予定しております。
(※その際、紙書籍版の仕様や商業上の都合により、イラストレーター様が変更となる可能性や、電子書籍版が配信停止となる場合がございます。あらかじめご了承の上、ご応募いただけますと幸いです。)

■ 権利・運用について
・今回の報酬には、Kindle電子書籍の表紙利用および作品プロモーション(Web/SNS等)での利用権が含まれます。
・イラストレーター様ご自身のポートフォリオやSNS等で実績として公開していただいて問題ございません。

■ クレジット表記について
ご採用させていただいたイラストレーター様のお名前(ご希望のペンネーム)は、Kindleの作品販売ページに掲載させていただきます。

■ 最後に
本書は連作短編集のため、続編が予定されています。今回採用された方には、続編の電子書籍化の際にも引き続き表紙デザインのご依頼をさせていただく予定です。

では、弊社特設ページであらすじと冒頭部をお読みいただき、あなたの思う存分に筆を振るっていただければ幸いです。
素晴らしいイラスト・デザインのご応募を心よりお待ちしております!

天才行政書士 狭霧詠には弁護士なんか必要ない(らしい)

【あらすじ】

 本作は、「揉める前にすべてを終わらせる」予防法務の天才行政書士・狭霧詠と、崖っぷちの新人弁護士・楠瀬涼が織りなす、連作短編形式のバディ・リーガルドラマである。

 楠瀬涼は、司法試験に五度目でようやく合格したものの就職先に恵まれず、三十歳にして即独立を余儀なくされた貧乏弁護士だ。頼りなさげな風貌とは裏腹に、元キックボクシング王者という異色の経歴を持つが、その実力を活かす場もなく、仕事は皆無。このままでは食えないという危機感から、「行政書士事務所が弁護士を募集中」という常識外れの求人に応募する。
 その事務所を率いるのが狭霧詠である。一等地の自社ビル「リトルフォートビル」を拠点とするベテラン行政書士でありながら、外見は身長一四五センチの女子中学生のような少女。しかしその実態は、十七歳で司法試験に合格した過去を持つ二十八歳の天才である。あえて弁護士登録をせず、「裁判はコスパもタイパも最悪」と断じて、紛争を未然に封じる予防法務に特化。人を駒として扱う冷徹な合理主義者であり、楠瀬に対しても「お前は私の戦略を実行する駒だ」と言い放つ。

 第一話では、楠瀬は詠のもとで提携を認められ、彼女のビル内に自身の法律事務所を構える。その後さまざまな事件を解決していく。

主要人物一覧

下記のイラストは、すべて、生成AIで作成した仮のアイコンです。こちらは参考程度にし、そのまま利用するのはお避け下さい。

◆ 腕力で解決する崖っぷち弁護士

 楠瀬 涼(くすのせ りょう) 司法試験に5回目でやっと合格したものの、就職先がなく即独立(即独)した30歳の貧乏弁護士。弁護士としての実力は未知数だが、その正体は元キックボクシング王者。とある事情で狭霧詠の事務所に転がり込み、彼女の「駒」としてこき使われることになる。 法律よりも右ストレートの方が強い、異色の肉体派弁護士。
※「紫雲女子大学消費者センターの相談記録」の顧問弁護士村正悠也の先輩にあたります。

◆ 司法試験合格済みの合法ロリ行政書士

 狭霧 詠(さぎり うた) 一等地の自社ビルに事務所を構える、業務歴10年のベテラン行政書士。見た目は生意気な女子中学生(身長145cm)だが、実は17歳で司法試験に合格している天才(でも弁護士登録はしていない)。実年齢は28歳。「裁判はコスパ・タイパ最悪」と断じ、揉める前に全てを封殺する『予防法務』のスペシャリスト。「お前は私の戦略を実行する“駒”だ」と言い放ち、涼を顎で使う。

◆ AI詠

 可愛らしくデフォルメされた狭霧 詠のアニメーション・アバター。あざといまでのアイドルポーズを決め、およそ彼女の素顔からは想像もつかない甘ったるい声を響かせる。

◆ 笑顔で毒を吐く有能スパイ?

 成海 まどか(なるみ まどか) 詠の事務所で補助者を務める、現役女子大生(19歳)。ふわっとしたお嬢様のような可愛らしい見た目だが、その実態は詠のためにあらゆる情報を収集する「スパイ」。 大学の顧問弁護士すら監視対象にするほど情報網が広い。涼に対して「5歳以上年下の女の子を好きになる男はロリコン」と笑顔で釘を刺す小悪魔的な一面も。
※紫雲女子大学法学部2年生の設定です。シジョセンメンバーとも知り合いで、特に芽森琴音と親しいです。

◆ 事務所の真のボス?

ダイフク 狭霧法務戦略事務所の主であり、涼の直属の「上司」である真っ白な秋田犬。人を見る目が厳しく、ダメな奴には吠え、気に入らない奴には強烈な「犬パンチ(またはキック)」をお見舞いする。 涼の顔面がお気に入り(サンドバッグ的な意味で)。

冒頭部

第一話 行政書士事務所に雇われる弁護士!?

 これが最後のチャンスだ。
 楠瀬涼は、駅前にそびえるビル――ガラスのカーテンウォールが春光を弾く、端正な外観の『リトルフォートビル』を見上げながら、乾いた喉を無理やり鳴らした。
 この面接に落ちれば、本当に終わる。
 弁護士登録から三ヶ月。依頼はゼロ。通帳の残高は、笑えない数字になっている。
 ――このままじゃ、食えない。
 その現実だけが、鈍い痛みとなって胃のあたりに居座っていた。
「行政書士事務所が、弁護士を募集……か」
 求人サイトの片隅で見つけた常識外れの募集要項。
 本来なら、プライドが邪魔をして見向きもしないはずの案件だった。
 だが、背に腹は代えられない。
 プライドなど、とっくに捨てた。
「……ここで決めるしかない」
 楠瀬は自分に言い聞かせるように呟き、ビルの自動ドアをくぐった。
 内部は、異様なほど青白く静まり返っていた。
 御影石の床に反響する足音が、やけに大きく響く。
 人の気配が、ない。
 受付も、警備員も、すれ違う社員すらいない。
「……本当に、ここで合ってるのか?」
 不安に駆られながら、案内板を見上げる。

 リトルフォートビル
 8階:――
 7階:SAGIRI LEGAL STRATEGY ROOM(狭霧法務戦略事務所)
 6階:――
 5階:――
 4階:――
 3階:――
 2階:――
 1階:レストラン『BISTRO FORTRESS(ビストロ・フォートレス)』

「……全部、空?」
 あり得ない。駅前一等地のアッパーミドルビルで、テナントが二つしか入っていないなど、どんな怪奇現象だ。
 世の中から忽然と人が消え、自分一人だけが取り残されたような錯覚。
 不意に、無機質な女の声が降ってきた。
『楠瀬涼だな。これから六階の六〇一号室で面接を行う。指示に従え』
 声と同時に、目の前のエレベーターが、まるで意思を持っているかのように開いた。
「えっ? ……見張られてる?」
 楠瀬は慌ててエレベーターの中に飛び込んだ。勝手に閉まる扉。
 逃げ場のない密室で、とりあえず目の前の鏡に向き合った。
 ダークグレーのスーツとネクタイの歪みを直し、シャープな顎のラインに剃り残しがないか指先で確かめる。
 広すぎる肩幅をすぼめ、目にかかりそうな前髪を丁寧に整えた。
『身長一八八センチ。体格、良好。骨格筋量も申し分なし。だが、シャツの右袖に皺がある。マイナス一〇点』
 またも頭上から降ってきた無機質な声に、楠瀬は跳ね上がった。
「し、身長まで? 全身スキャンされてるのか……? っていうか、シャツの皺だけで減点って、厳しすぎないか……?」
 思わず出た独り言さえ筒抜けなのではないか……。
 楠瀬は、ごくりと喉を鳴らした。
 六階に到着し、扉が開く。やはり廊下には人の気配がない。
 指示された六〇一号室のドアをノックしたが、応答はない。
 楠瀬は意を決して「失礼します……」と足を踏み入れた。
 そこは、ガランとした無機質な空間だった。
 部屋の中央に置かれた一脚のパイプ椅子。その正面には、大型の高精細モニターが鎮座している。
 突如、モニターが青白く発光し、一人の少女のアニメーション・アバターが映し出された。
 丸みを帯びた輪郭に、ぱっつんと切り揃えられた黒髪のボブカット。
 大きな瞳は少しタレ目気味だが、その奥には氷のような冷徹さが宿っている。
 白いシャツにぶかぶかの紺色のカーディガンを羽織った姿は、義務教育の真っただ中にいる女子中学生といったところか。
『そこの椅子に座れ。これより、AI詠がお前の面接を行う。私の質問には三秒以内に答えろ』
 イラストの唇が、滑らかに動いた。
「は、はい! よろしくお願いします!」
 AIに面接されるなど初めての経験だ。
 見た目は愛らしい少女のアバターだが、飛んでくる質問はどれもナイフのように鋭く、容赦がない。
『弁護士法七十二条における非弁活動の境界線を、実務上のリスクを絡めて述べろ』
「えっ、あ、ええと……、弁護士でない者が報酬を得て法的事務を……」
『遅い。減点!』
「……っ!」
『お前が弁護士になってやったことはなんだ?』
「美人局疑惑をかけられた女子大生が不同意わいせつの被害者であることを明らかにし……」
『くだらん! 減点!』
「くだらんって……!?」
 ツンデレの「デレ」を完全に削ぎ落とし、毒素だけで煮詰めたようなAI詠。
 その可愛らしさに萌える余裕など一瞬もない。
 最高にやりづらい面接が一時間を超え、楠瀬の意識が朦朧としてきた時だった。
 視界の端を、巨大な白い何かがフワッと横切った。
「うわっ、なんだ!?」
『無駄口を叩くな。減点だ』
 叱責を無視して足元を見れば、そこには雪の塊のような、もふもふとした立派な毛並みの大型犬が座っていた。秋田犬だ。
 いつの間にか、閉めたはずのドアが開いている。だが、入り口を振り返っても人の気配はない。
 巨大な犬は、見定めるような瞳で、楠瀬をじっと見上げていた。
 不意に、モニターの中のAI詠の声にどこか楽しげな響きが混じった。
『面接は終了だ。ダイフクがお前を案内する。ついてこい』
「ダイフク? ……それって、どなたのこと……」
 問いかける前に、モニターの光がぷつりと消えた。
 案内役らしき人物の気配はない。
 静寂の中、楠瀬の前に残されたのは、そこにいるだけで「どん」とした存在感のある秋田犬だけだ。
「この子がダイフクか?」
 そうとしか考えられない。ダイフクという名前らしい犬は、悠然と部屋の外へ歩き出した。
 楠瀬は戸惑いながらも、その後に従うしかなかった。
 エレベーターに乗り込むと、ダイフクはお座りをして、楠瀬をじっと見上げてきた。
「ダイフク……君は、一体どういう子なんだ?」
 もふもふとした立派な毛並みに惹かれ、楠瀬が指を伸ばした、その時だ。
 どこかに隠されたスピーカーから、先ほどの少女の声が響き渡った。
『気安く触るな! ダイフクはお前の上司だぞ!』
「じ、上司……!? 犬が!?」
 驚愕で口をあんぐりと開けた刹那。
 視界からダイフクの巨体が消えた。
 ――速い!
 ダイフクの跳躍は辛うじて見えたが、身体は反応しなかった。ダイフクの分厚い前足が、楠瀬の顎にゴツンとクリーンヒットする。
「い、痛っ……!」
『仕事をサボったら、ダイフクのパンチ、もしくはキックが炸裂する。覚えとけ』
 仕事をサボったら、と言ったか。それはつまり、この滅茶苦茶な条件で「採用」されたということなのか。
 顎をさすりながら呻く楠瀬を、ダイフクは「遊んでやった」と言わんばかりに尻尾を振って見つめている。
 犬に上司として管理される生活……。
 楠瀬は自分のこれからの運命を察し、苦笑いするしかなかった。
 チーン、と軽やかな音が鳴り、エレベーターが七階で停止する。
 エレベーターの扉が開くと、そこには壁も仕切りもない、広大な空間が広がっていた。
 ワンフロアすべてが『狭霧法務戦略事務所』。
 その光景は事務所というより、さながら「知の要塞」だった。
 中央を貫く一本の通路。その左右には、天井まで届く書棚が幾重にも並び、図書館のような静謐な空気が漂っている。ダイフクは迷いのない足取りで、その中央通路を進んでいく。
 楠瀬は左右を埋め尽くす背表紙に圧倒された。
 新旧の六法はもちろん、膨大な判例集、先例集、実務解説書。並の法律事務所を遥かに凌駕する蔵書の数々は、ここを根城にする狭霧詠という行政書士が積み上げてきた十年の重みを、無言で誇示しているようだった。
 書棚の迷宮を抜けた先で、視界が一気に開ける。
 法廷を模したかのような奇妙な空間が広がっていた。
 正面奥、裁判官席のように一段高くなった壇上に、重厚なマホガニーのデスクが鎮座している。ダイフクは一目散に駆け寄り、そのデスクの裏側へと姿を消した。
 そこに、彼女はいた。
 モニターで見たAI詠をそのまま現実の世界へ引きずり出してきたような、小柄な少女。
 どう見ても、中学生にしか見えないその幼い容姿は、法廷のような厳粛さの中で異様な存在感を放っている。
 彼女は楠瀬に視線一つ向けず、デスクの上に置かれた何かに、意識を集中させていた。
「ごきげんよう!」
 不意に左手の事務机から、鈴を転がすような声が響いた。
 一際目を引く華やかな女性が立ったところだった。
 明るいブラウンのセミロングをポニーテールに束ね、大人びた雰囲気を装っているが、弾けるような若々しさは隠しきれていない。
 アイドルと見紛うばかりの愛らしい瞳と、ほんのり桜色の唇。パステルカラーのブラウスにプリーツスカート、ピンクのカーディガンを羽織ったその姿は、殺風景な事務所の中でそこだけスポットライトが当たっているかのようだった。
「お待ちしておりました。弁護士の楠瀬先生ですね? 私、当事務所で補助者を務めております、成海まどかと申します。よろしくお願いします!」
「あ、初めまして。……弁護士の、楠瀬涼です」
 名乗る声が、自分でも情けないほど微かに震えた。
 そう――自分は、一応は「弁護士」なのだ。
 だが、その肩書きは今や風前の灯火だった。
 昨冬、司法修習を終える間際になっても、所属先はどこも決まらなかった。五回目の受験でようやく合格した、どん底の成績。三十歳になるまで、履歴書に書けるような職歴も一切ない。
 面接を落とされ続けた末に選んだ、いや、選ばざるを得なかった「即独(司法修習後即独立した弁護士の意味)」という茨の道。
 最初こそ、偶然舞い込んだ美人局疑惑事件を解決し、五十万円の報酬を得て、「これなら行ける!」と調子に乗った。
 だが、現実は甘くない。その後の依頼はゼロ。あぶく銭の報酬も、弁護士会の会費や生活費で、三ヶ月経たずに綺麗さっぱり消えてしまった。
 文字通り「食い詰めた」果てに、ネットの片隅で見つけたのが――『行政書士事務所による弁護士募集』という、業界の常識ではあり得ない求人だったのだ。
「そうそう、肝心の履歴書をお預かりしていませんでしたね!」
「あっ、はい……これです」
 楠瀬は、冷や汗の滲んだ手で履歴書を差し出した。
 中身は真っ白。空白だらけの人生が詰まったこの紙きれを、新卒のような瑞々しさを放つまどかに見られるのは、公開処刑に近い羞恥心があった。
 どうか、今この場で読み上げないでくれ――。
 まどかは花が咲くような笑顔でその紙を受け取ると、奥の例の少女のもとへと運んでいった。
「詠先生。楠瀬先生の履歴書、お預かりしましたー!」
「必要ない。シュレッダーに入れろ」
「はーい、了解です」
 まどかの軽やかな返事と共に、楠瀬が魂を削って書いたスカスカの履歴書が、無情にも機械の歯に飲み込まれていった。
 ――ザクザクザク……。
 静まり返った室内に、楠瀬の三十年間の歩みが紙屑へと変わる音が虚しく響く。
「お、俺の履歴書が……」
 絶句する楠瀬の耳に、先ほどから何度も聞かされた、あの傲慢な声が投げかけられた。
「お前が履歴書に書いてきた程度の低レベルな情報は、応募してきた時点で全て把握している」
 声の主は、その中学生にしか見えない少女だった。
 彼女はタブレットを片手に、壇上から楠瀬の下へ歩み寄ってくる。
 身長は百四十五センチほど。細身の身体に、ぶかぶかの紺色カーディガン。下は黒いジャージのパンツという「部活終わりの女子中学生」スタイル。
 楠瀬を見上げるその瞳には、反抗期特有のやり場のない苛立ちをぶつける先を探すような、尖った光が宿っているように見えた。
「まず言っておく。先ほどのAI面接の結果だけなら、お前は不採用だ。特に、あの美人局疑惑の件な。……直接面接していたら、お前のその間抜け面にタブレットを叩きつけていたところだ!」
「……え、あ、はい……?」
「本来なら即刻お引き取り願うところだが――お前はなぜか、ダイフクのテストに合格した」
 主の言葉に応じるように、ダイフクが彼女の足元を誇らしげにうろちょろと回り始める。
「ダイフクは、本能的にダメな奴を見抜いて吠える。だが、お前には吠えなかった。それが、お前をここに置く唯一の理由だ」
 確かに吠えられはしなかった。顎に痛烈なパンチはもらったが。
 ……というか、それ以前に。
「……あの、失礼ですが……あなたは、どなたですか?」
 楠瀬が恐る恐る尋ねると、少女の眉間に深い溝が刻まれた。
「私の話の途中で質問するな、無能弁護士! お前のようなノロマを見ているとイライラする」
 吐き捨てられた罵倒の鋭さに、楠瀬は思わず身をすくませた。
「いいか、一度しか言わないからよく聞け。お前がさっき面接を受けた六〇一号室を、お前の事務所としてタダで貸し出してやる。ただし、私が命じたことは直ちに実行しろ。それが条件だ。返事は?」
「は、はいっ……!」
 理不尽な圧力の前に、条件反射で背筋を伸ばしてしまった。
「今この瞬間から、お前は私の戦略を実行する『駒』だ。私の指示通りに動け。三秒以内にな。……返事は?」
「……はい……」
「早速仕事だ。資料を読んで六〇一号室に戻れ。これからはそのイヤホンを通じて私が直接指示を出す。言われた通りに動け――」
 手渡されたのは、タブレットとワイヤレスイヤホン。
 呆然と立ち尽くす楠瀬の頭には、一つの疑問が渦巻いていた。
 本当に、自分より四十センチ以上背の低い、この生意気な少女が――実務歴十年の行政書士、狭霧詠本人なのか……?
 詠がダイフクを引き連れて席に戻ると、入れ替わるようにまどかが弾むような足取りで近づいてきた。
「楠瀬先生、楠瀬先生」
 まどかは楠瀬の耳元に顔を寄せ、内緒話をするように声を潜める。
「詠先生は、あんな風にツンケンしてますけど……本当は楠瀬先生のこと、かなり気に入ってるんですよ。だって、『顔は合格!』って言ってましたもん。それに六〇一号室はこのフロアから一番近い部屋ですよ。会いたいときは数秒で駆けつけられますもんね」
「はあ……」
 楠瀬が困惑していると、遠くのデスクから鋭い飛礫が飛んできた。
「まどか! 余計なことをベラベラ喋るな! その舌を引き抜かれたいのか!」
「はーい、お口チャックです――あ、それと楠瀬先生」
 まどかは不意に真顔になり、一歩身を引いた。
「念のために言っておきますけど、私のことは絶対に好きにならないでくださいね。私、十九歳なんです。五歳以上年上の男性とお付き合いするなんて、生理的に無理なので」
「えっ……」
「だって、五歳以上年下の女の子を恋愛対象にする男の人って、刑法第百七十七条三項の精神に則れば、立派なロリコン予備軍じゃないですか。……正直、気持ち悪いです」
 まどかの向日葵のような笑顔が消え、絶対零度の視線が楠瀬の胸を深く抉った。
「五歳離れているだけで……ロリコンですか……」
 刑法第百七十七条三項――相手が十三歳以上十六歳未満の場合、その相手より五歳以上年上の者は、合意があっても不同意性交罪の対象となる。法は、その年齢差を「対等な立場ではない倒錯的な関係」とみなしているのだ。
 三十歳の自分が十九歳のまどかを対象にすることへの、これ以上ない冷酷な先制攻撃――。
「好きになるなら、詠先生にしてくださいね。じゃあ、頑張ってください!」
「……」
 見た目が中学生の詠を好きになる方が、世間的にはよっぽどロリコンの誹りを受けるのではないか。楠瀬がそんな疑問をいだいた時、再び詠の怒号が飛ぶ。
「まどか! 余計なおしゃべりしないで仕事に戻れ! お前もだ! モタモタするな、三秒以内に部屋へ戻れ!」
「は、はいっ!」
「期待していますよ、楠瀬先生。相手の弁護士さんをコテンパンにやつけてくださいね」
 まどかの明るすぎる激励を背に、楠瀬は逃げるようにエレベーターへと駆け込んだ。