剣は、銃器が出るまで、東西古今、最もポピュラーな武器でした。
三国志の登場人物も、ほとんどの者が剣を持っていたと考えられます。
特別な名前の付いた剣もあり、例えば、曹操が董卓暗殺に使おうとした七星剣、曹操が所持していた名剣青釭の剣・倚天の剣などが知られています。
劉備も、雌雄一対の剣と呼ばれる二本の剣を常に持っていたという設定になっています。
しかし、これらの剣にまつわる逸話は、三国志演義における創作であり、曹操や劉備がこれらの特別な剣を持っていたという話は、正史三国志には出てきません。
三国志の時代に限った話ではありませんが、剣は、戦場においては予備の武器に過ぎません。
馬上や戦車から武器を振るう場合、剣では、間合いが短すぎますから、メインの武器とはなり得ません。
メインの武器として利用したのは、矛などのように長い柄のついた長兵器でした。その長兵器を失った場合、あるいは、敵を倒してその首や耳を削ぎ取る場合に、サブウェポンである剣を抜いたわけです。
サブウェポンである剣は、誰でも持っていたと考えられますし、平時も護身用に剣を身につけていたと考えられるわけです。
問題は、その剣がどのような形状だったのかということです。
剣と言うと、一般的な形として思い浮かべるのは、両刃の形で先端が尖っているタイプのものでしょう。
西洋ではロングソードなどと呼ばれますし、中国でも、中国武術の剣がそのような形をしています。
春秋戦国時代には、既に、両刃の形で先端が尖っている「剣」が既に登場していました。とりわけ、呉越地方では、剣の生産が盛んで、様々な名剣が作られたことが知られており、実際に、当時の剣が出土しています。
ところが、漢、後漢の頃になると、このような形の剣は廃れていました。
剣は、そもそも、歩兵が使う武器でしたが、馬上での戦いが中心になると、剣はめったに使われなくなります。
また、両刃の形で先端が尖っている「剣」では、例えば、馬で疾駆しながら、敵を斬りつけた場合に、折れてしまうということがよくありました。
そこで、新たに登場したのが、「直刀」と呼ばれるタイプの剣でした。
直刀というのは、文字通り、日本刀のように片刃の形状で、反りのないまっすぐな剣です。
刀の背の部分、つまり、刃がついていない部分が分厚くなっているため、刃の部分で相手を斬りつけた場合に、折れにくい構造になっています。
そのため、馬上などで、剣を力いっぱい降るような使い方をするときは、「直刀」の方が使いやすいわけです。
「剣」は斬ることも突くこともできますが、一般的には突くことがメインの武器です。ただ、突くならば、剣よりも長い柄のついた矛などの方が有利ということになり、突くための武器としての剣は廃れたわけです。
「直刀」も、突くこともできますが、斬ることに重きを置いた武器と言えるでしょう。反りをつけて、斬ることにさらに重きを置いたのが日本刀などであるということになります。
漢、後漢の頃は、既に、剣は廃れ、剣と言ったら、「直刀」を意味するようになっていました。
斬る時に折れにくいという実用性の他、剣と比較して製造コストが安く、短期間で作れるため、大量生産が求められる軍隊の武器としては最適だったわけです。
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