憲法基本問題2 パターナリスティックな制約

投稿者: | 2022年9月18日

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★今日の問題★

次の文章は、参議院内閣委員会で食育基本法が議論された折のある議員の発言を要約したものである。この発言の趣旨と明確に対立する見解はどれか。

法案の十三条に国民の責務という条文があります。これについては、先ほどの議論の中で、努力規定という表現が提案者の方から聞かれましたけど、しかし国民の責務ときっちりうたっているわけでございます。
健全な食生活に努めるという責務、これをなぜ国民が負わなければならないのか。裏を返せば、不健康でも自己責任じゃないかという議論もあります。
自分が自分の健康を害することに対して何らかの制約を課す。つまり、自己加害の防止であり、パターナリスティックな制約と言います。自己加害に対して、国家が公権力として介入するのは原則として許されないわけです。
しかし、未成年者の人格的自立の助長や促進というものに関しては、限定的だけれども、このパターナリスティックな制約は、認められるであろうという議論もあります。
(参議院内閣委員会会議録平成17年5月19日)

1、文明社会の成員に対し、彼の意思に反し、正当に権力を行使しうるのは、他人に対する危害の防止を目的とする場合である。
2、日本国憲法によって、立つところの個人の尊重という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによってはじめて確実なものとなる。
3、人の人生設計全般にわたる包括的な自律権の立場から、人の生と死について、その時々の不可逆的な決定について、例外的に制約することは認められる。
4、その人間がどういう将来を選びたいか考えるよりも、その人間がどういう将来性を有しているかという観点を優先するのは、憲法の個人尊重原理の要請である。
5、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。

胡桃「10秒で答えてね。よーいどん!」

建太郎「おう」

1秒

2秒

3秒

4秒

5秒

6秒

7秒

8秒

9秒……

胡桃「10秒経過。どうかしら?」
建太郎「ちょっと待てよ。これは国語の問題だろ?」
胡桃「だから言ったでしょ。行政書士試験の憲法は半分、国語みたいなものなのよ」
建太郎「しかも、何の話かさっぱり分からないし……」
胡桃「まず、パターナリスティックな制約とは、自己加害を防止するために、国家が本人の自己決定に後見的に介入して、人権の行使を制約することという意味よ」
建太郎「議員先生の発言にもあるな」
胡桃「本来、人権の制約が正当化されるのは、憲法上、次の場合よ」

憲法
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

建太郎「あっ。公共の福祉か。公共の福祉に反する場合は人権の制約が正当化されると」
胡桃「要するに人様に迷惑をかけてはいけないということね。でも、自己加害は自分の問題であって、人様に迷惑をかけているわけじゃない?」
建太郎「そうとも言えるな」
胡桃「だから、自己加害を防止するための人権制約は、公共の福祉によることはできない。そこで、パターナリスティックな制約という概念を認める必要があるということなのよ」
建太郎「なるほど、そういう意味なんだな」
胡桃「ただ、個人の自己決定は最大限尊重されるべきだから、パターナリスティックな制約は、自己決定する能力が不十分な者に対し、自己決定が本人自身の人格的自律そのものを回復不能なほど永続的に害される場合のみ認められるべきであるとされているのよ。つまり、限定的なパターナリスティックな制約ね」
建太郎「うーん。つまりは、大人の人が死にたーいと言っているのに対しては、『あっそ、勝手にすれば』って、放っておいていいけど、人生経験の浅い子供が死にたーい。と言っている場合は、『ちょっと待て、死ぬことないだろ。学校行かなくたって、世の中楽しいことはほかにもいっぱいあるんだよ』って諭すべきということか」
胡桃「そうよ。それを踏まえたうえで、1から見ていくわよ」
建太郎「1は、他人に対して危害を加えることは公共の福祉に反するから、人権が制約されるということだよな」
胡桃「そうよ。パターナリスティックな制約については特に言及していないから、対立する見解ではないわね。2はどうかしら?」
建太郎「不当な干渉から自我が保護されるのが基本だという意味だよな。だから、パターナリスティックな制約は限定しようという考えにつながる」
胡桃「そうね。対立する見解ではないわ。3はどうかしら?」
建太郎「つまり、パターナリスティックな制約は例外的に認められるものだということだよな。まったく同じ見解だよな」
胡桃「4はどうかしら?」
建太郎「うーん。つまりは、自己決定を無視して、その人間が役立つ人なら、積極的にパターナリスティックな制約を課そうという考え方だよな」
胡桃「すると、パターナリスティックな制約は、自己決定を尊重する観点から、限定的に課すべきだという考え方と真逆だとわかるわね」
建太郎「そうなるな」
胡桃「5はどうかしら?」
建太郎「憲法の条文そのままだな。選択肢1と同じで、公共の福祉について述べただけで、パターナリスティックな制約については特に言及していない」
胡桃「というわけで答えはどれかしら?」
建太郎「4なんだな」

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